<7> 更なる避妊教育の普及をめざして ― 咲江レディスクリニック院長 丹羽 咲江 (2010.10)
更なる避妊教育の普及を目指して
咲江レディスクリニック院長 丹羽 咲江
思春期外来を開設
名古屋市の中心地に開業して以来8年、開業当初は低用量ピルには馴染みがなく、正直、避妊教育の大切さも感じていませんでした。
開業して間もなく、おとなしそうな高校3年生が母親と一緒に受診に来ました。月経が半年以上遅れているが受験のストレスで止まったと思い、受験が終わるまで受診を待っていたとのことでした。
お腹を見ると、まるで臨月の妊婦さんのようなお腹です。まさかと思って超音波検査をしてみると、本当に臨月でした。母親も本人も妊娠に全く気づかなかったとのことです。それから大急ぎで受け入れ先の病院を探し回って無事出産に至りましたが、彼女はこのために進路の選択を含めて改めて考え直さざるを得ませんでした。この事例は私にとって正しい知識を持つことの大切さを認識させられた出来事でした。
女性にとって産婦人科はどうしても敷居が高いようで、「妊娠は心配だけど、産婦人科は行きにくいし、コンドームを使っていれば大丈夫かな?」と思っているうちに望まない妊娠をしてしまう患者さんを沢山見かけます。そこで、「自分の身体は自分で守る=経口避妊薬(OC)の使用」ということの大切さを患者さんに伝えているうちに、今では1か月間のOCの処方数も千シートを超えるまでになりました。これもひとえにスタッフの協力の賜物です。
OCの普及には、スタッフの熱意や知識が必須です。スタッフには可能な限り色々な講演に参加してモチベーションをあげてもらっています。それに加え月1回ミーティングを行う中で、問題になりそうな患者さんのディスカッションやOC処方のスキルアップ、各自が身につけた知識の伝達講習を通してスタッフの共通認識を図っています。また、昨年は看護師に思春期保健相談士の資格を取得してもらい、念願の思春期外来を始めることも出来ました。
講演活動で知識伝える
敷居が高くて婦人科を受診しにくいならば、こちらから出かけて話をすべきと思い立ち、とにかく人に会うたびに「性に関する正しい知識を学生に伝えたいので、話せる機会があったら声を掛けてください」と言い続けている内に、ピアッ子愛知や愛知県性教育協会の方々と知り合う機会に恵まれ、最近では学校で講義をする機会も増えて来ました。
名古屋市では、毎年夏に「愛知サマーセミナー」という私学の高校生を中心としたセミナーが開催されています。今年は3日間に渡り、 1408講座に4万人が参加しました。私の講座は2日目の朝9時という早い時間のスタートでしたが、教室もほぼ埋まり、その中でも茶髪のひときわ目を引く男子学生数人が熱心に講義を聴いていました。後で知ったのですが、以前講義に行った高校の学生達でした。
学生達は具体的な正しい知識を知りたがっており、やはりこちらから話をしに行くことはとても大切なのだと実感しました。
性教育の普及に尽力
今は主に中学校や高校で避妊教育をしていますが、そこで感じることは、小学校のうちから「命の大切さ」や「自尊心を育てる」ことがとても重要だということです。名古屋大学看護学科の鈴木和代教授が中心となったナーベルという会があり、半年に1回小学生を対象として名古屋市科学館で「からだゼミナール」を開いており、私も一緒に活動をさせていただいています。ここでは小学生に赤ちゃんを実際に触ってもらったり、妊婦さんの胎児心音を聞いてもらったり、お産劇をして命の大切さを伝えています。性教育に熱心な助産師さん達との交流も持つことが出来、大変刺激になっています。
性教育はとても大切だと考えますが、たった一人の力では愛知県すべての高校で行うことは不可能ですし、内容も片寄ってしまう可能性があります。今後、愛知県の医療関係者が協力し合って、すべての高校生に伝えていくことが出来ればと考えています。
【略歴】
平成3年名古屋市立大学医学部卒業。名古屋医療センター、名古屋市立西部医療センター勤務を経て平成14年1月名古屋市に「咲江レディスクリニック」を開業。愛知県産婦人科医会医業経営委員。八事看護専門学校講師。WADN(世界エイズデーin名古屋)広報委員。愛知県性教育協会会員。ナーベル会員。