<8> 受診しやすい産婦人科を目指して ― エムズレディースクリニック 神藤 已佳 (2010.11)
受診しやすい産婦人科を目指して
エムズレディースクリニック 神藤 已佳
「産婦人科へ行けない」
大学卒業後、出身大学の産婦人科医局に入り、地方を廻り、周産期の専門のセンターに研修に行き、医局に戻りました。そして自身の妊娠、分娩。諸事情あり、当直ができない状態になって外来勤務だけすることになりました。当直していないこと、病棟勤務をしていないことに引け目を感じていました。
こんな私にでも患者さんは来てくれました。しかも外来に来る患者さんはいろいろなことを教えてくれました。総合病院勤務だったときにはわからなかった受診者の気持ち。進行した病気の患者さんが決まって言う、「産婦人科に来る勇気がなかった」「何をされるか不安だった」「妊娠以外に受診してはいけないものだと思っていた」。
産婦人科に行きたくないのではなくて、行くことができない。他の先進国とは比べられないくらい低い子宮頸がん検診受診率。それは日本の女性の産婦人科受診をためらう気持ちのストレートな結果だと思います。
産婦人科をまず行きたくないところと思わせない、普通に受診できるところと思ってもらいたい。友達も家族も連れて行きたいと思わせたい。そんな産婦人科を作りたくて2007年5月に開院しました。
大人にも避妊教育が必要
開院前から力を入れていた経口避妊薬(OC)の普及は現在もスタッフ皆で、力を入れて頑張っています。初めて産婦人科に来た患者さんには「時間あったら知識得ていって!」と言って説明します。「クリニックに来院して得したと思って帰って!」という気持ちだけです。1年後に「OC内服したいのですけど」と言われた時が、スタッフにとっての醍醐味だそうです。そしてOC内服中の患者さんがお友達に、家族にOCを勧めてくれた時、本当にOCの輪がつながったことを実感します。
今、力を入れたいのは思春期教育です。避妊教育についても依頼があれば行うという形をとっているのですが、私一人では限界もあります。最近、スタッフに思春期相談を行っていた保健師が加わったので、クリニック内で何かできないかを模索中です(保健師による無料ガールズ相談など)。
また、思春期の人たちだけに避妊教育が必要なのではありません。日頃の診療で実感するのは、思春期を過ぎた人たちにきちんとした避妊の知識がないという実態です。緊急避妊を何度も希望する、人工妊娠中絶を2回以上行っているのにOCの内服をしない、OCのことすら知らない。クリニックに足を運んでくれる人たちには何とか説明する機会はありますが、来ない人には……。現在、思春期を過ぎた人たちへの避妊についての説明も重要だと感じています。
イベント開催で敷居低く
クリニックから患者さんへの発信としては、年に数回、院内で勉強会を開いています。テーマはいろいろですが、基本は「自分の体を大切にしよう」です。勉強会の後はプリザーブドフラワーの先生を招いて皆で一緒にプリザーブドフラワー作りです。自分で作った作品は持って帰ってもらいます。アロマの講習も行います。いろいろな勉強会やイベントを行うことで、少しでも産婦人科の敷居を下げることができればと思っています。
スタッフにも研修会には積極的に参加してもらっています。とくに日本家族計画協会の研修に参加すると、鼻息が荒くなって帰ってきますので、非常に力強く感じます。
卒業時には想像できなかった自分の姿ですが、産婦人科受診をいとわなくなってもらうことにより、病気の早期発見、女性のいろいろな意味での意識向上に役に立てればと思っています。
【略歴】
1971年大阪府出身。旭川医科大学卒業。日鋼記念病院、国立循環器病センター勤務。2007年5月より現職。北海道産婦人科医会予防医学・性教育担当理事、母子保健担当理事、女性保健部会担当。