中絶率高い九州、避妊教育の普及を

大隈レディースクリニック(佐賀県江北町)副院長 大隈 良成




人工妊娠中絶の実施率が全国ワースト1に

私が避妊教育(性教育)に入っていったきっかけは1998年頃テレビのワイドショーでクラミジアの話題を見たことでした。「最近日本で若者を中心にクラミジア感染が急増している」という内容でした。

当時の私としては、性病は皮膚科・性病科・泌尿器科の病気で婦人科が手を出す領域ではないという認識でした。ただ、テレビで見たことは田舎の佐賀でもそうなのかなあという単純な疑問がわき、当院に中絶に来た10代の女の子10人のクラミジアと淋菌を検査してみました。すると10人のうち3人がクラミジア陽性、内1人は淋菌も陽性という結果に愕然としました。そこから更に枠を広げて外来受診者466人のクラミジアを調べたところ、466人中115人が陽性(陽性率24・6%)でした。

なんとかこの現状を学校現場に伝えなければ子どもたちが危ないと思い、こちらからお願いして近所の高校に性教育に行ったのが初めてでした。その後も細々と講演活動を続けていましたが、2006年度佐賀県の10代人工妊娠中絶の実施率が全国ワースト1となったことがきっかけで急に性教育に注目が集まり、私への講演依頼もぐんと増えました。さらには2008年度、生殖年齢女性全体の中絶率がワースト1となりました。佐賀県では以前から若年層のみでなく30代後半~40代の中絶率が高く、遂にトータルでワースト1となったわけです。

 

避妊教育ネットワークの協力で意識調査を実施

クリニック外観こうした中で「なぜ、佐賀県の中絶率が高いのか?」ということがよく話題になります。その理由としてよく聞かれることは①中絶の他県からの流入が多いのではないか?②佐賀県の産婦人科医が正直に届けているからではないか?③佐賀は男性の立場が強く女性が断れないのではないか?④女性の就業率が高いからではないか?⑤やはり根本的に避妊の知識が乏しいからではないか?等々。

でもどれも推測の域を出ません。そこで2010年5月、全国の避妊教育ネットワークの先生方の一部にご協力いただき、避妊に対する考え方の地域差をアンケート調査してみました。アンケートの項目としては、質問①「避妊は男女どちらが主体か?」、質問②「妊娠したくない時に避妊しないでセックスを求められた時どうするか?」、質問③「あなたの主な避妊法は?」、質問④「大切なことを決める時にどちらに主導権があるか?」、質問⑤「パートナーを怖いと思ったことがあるか?」―の5項目です。

この結果を中絶率の低い千葉、神奈川、茨城、愛知の6施設と中絶率の高い九州の長崎、大分、佐賀の4施設で比較してみました。

結果として有意差が出たのは質問②と質問③で、妊娠したくない時に避妊しないでセックスを求められた時に「断る」と答えた方が、中絶率の低い地域では71%に対し九州では60%と有意に低く、また、避妊法として中絶率の低い地域では「腟外射精」と答えた方19%に対して、九州では27%と有意に高いという結果でした。

つまり九州では避妊なしのセックスに対し、嫌な時に「嫌!」と断れないでいる現状と、「腟外射精」を正しい避妊法と思い込んでいる現状が示唆されました。こうしたことが「望まない妊娠」につながっている可能性が高いと思われます。

 

行政と協力し、さらなる避妊教育の普及目指す

こうした現状に対しては、もちろん男性が女性を思いやる教育が不可欠ですが、やはり女性が我が身を守るためには、リプロダクティブ・ヘルスの観点からも、女性主体の避妊法である経口避妊薬(OC)またはIUDの普及が望まれます。

私たちが避妊教育をするチャンスとして、①中高生への性教育②中絶に来られた方への避妊教育③出産後の家族計画―などがあります。しかし産み終えた世代に対してはなかなか正しい避妊教育をするチャンスがなく、今後、行政や地域の保健師さん方とも協力して、さらなる避妊教育に努めていく所存です。

 

 

【略歴】
1955年生まれ。1980年福岡大医学部卒。同年九州大産婦人科学教室入局後、佐賀県立病院にて研修。1982年佐賀医大産婦人科学教室入局。佐賀医大助手。1992年より現職。1999年より佐賀県内で性教育を始めた。