<15> 女性自身の健康が、宇宙を元気にする ― 稚枝子おおつきクリニック(山梨県大月市)院長 武者 稚枝子 (2011.06)
女性自身の健康が、宇宙を元気にする
稚枝子おおつきクリニック(山梨県大月市)院長 武者 稚枝子
OCで月経痛改善
今年1月21日に、出身地である山梨県大月市の駅前にクリニックを開業しました。実家の医院の流れから、あくまで女性が主役ですが、男性も診ております。また、いわゆる婦人科ではなく、女性の一生涯を通して起こり得る不健康な状態を幅広く受け入れ、専門治療も行いつつ、他院との連携も密にとりながら診療を行っております。
1999年、日本で低用量経口避妊薬(OC)が認可された年、私は鎌倉市にあります湘南記念病院に勤務しておりました。認可を前にして行われた神奈川県の産婦人科医対象の説明会では、非常に熱い質疑応答が行われました。それまでの中用量のピルに比べて、服用前・服用中に推奨される問診や検査項目が多いことや、自費でこれらも行うのかという質問が多かったように記憶しております。
私自身は、避妊の効果の高さはもとより、副効用とされる月経痛や月経前症候群(PMS)の軽減、内膜症の治療、貧血の緩和、卵巣がん・大腸がんを減少させる等々、とても興味深く、是非治療に取り入れたいと思いました。私自身、産婦人科医になってすぐから更年期医学に長く携わっており、ホルモン剤についての患者さんへの説明や効果についてはあまり苦ではなかったこともありました。
治療に取り入れてすぐに、職員の娘さんが相談にみえました。まだ、高校2年生でした。初経後から、毎回倒れるほどの月経痛を繰り返しているということでした。学校で月経になると、毎回お兄様が迎えに行き、背負って帰り、自宅で月経になると、救急搬送されていました。私の外来にみえる直前の救急搬送先では、「もうこれ以上は加療できないので、子宮を取りましょう」と言われたということでした。家中が、娘さんのことで暗くピリピリした状態になっており、娘さんも「こんなに毎月辛いのなら、子宮を取ってもいい」。ただ、さすがに子宮を高校2年生で摘出することに悩まれて相談されたということでした。認可間もないOCでしたが、説明をして処方したところ、「今までの騒動は何だったのか」というくらい月経が軽くなり、恐れることなく日常生活も送れるようになりました。「家族中が明るくなりました」と輝く笑顔でお母様がおっしゃっていたことを思い出します。
こうしてOCを診療に取り入れ始め、OCの奥深さを思う毎日です。
講演会の準備に奔走
山梨でも仕事を始め、OCも処方し始めました。その頃、群馬の家坂清子先生のご推薦を賜り、避妊教育ネットワークに参加させていただくことになりました。常々、子ども達への教育の大切さを感じ、そのきっかけを探していた私にとりましては、この会に参加出来たことで、その願いが実現しました。
昨年度、日本家族計画協会「思春期地方クリニック事業」に参加させていただきました。昨年3月28日に地元の大月市で、「思春期からの性と生」というテーマで講演会を行いました。準備段階で、実際に大月市や近隣の市の市役所、教育委員会、養護教諭の先生方の集まりなどに足を運び、直談判的にチラシ(写真)を配る許可をお願いしたり、また思春期教育についても説明に回ったりしました。すると、意外なほどスムーズにご理解いただき、何とか無事講演会を行うことが出来ました。
実際の講演会の日は春休みの真っ只中で残念ながら参加者はそれほど多くはなかったのですが、それでも山梨県の地方紙に取り上げられ、その講演会前後から市の小・中学校や児童養護施設などから性教育(思春期教育)の講演依頼が続いております。まずは、一石を投じることが出来たかなと思っております。しかし、まだまだ山梨では充分に知識が拡がっているとは到底言えない状況です。焦らずに、でも歩みを止めることなくパワーアップしながら継続していきたいと思います。
学校での講演会の場合、養護教諭や学年担任の先生、校長先生のご意向(授業の目的)には最大限沿うよう準備します。小学校高学年ですと、進化論から希望されることもあり、40分の中でいかに興味を保ちつつ、趣旨を伝えるか、毎回真剣勝負ですが、どの子ども達も性(生)について知識を得ることを欲していると感じます。とてもやりがいのある仕事だと心から思います。
女性の健康に貢献したい
今、日本は未曽有の大災害に見舞われています。高度に進んだと思われていた現代社会のもろさを目の当たりにして、全世界が動かされているように感じます。
「どうしたらいいのか……」と、途方に暮れることもあるでしょう。でも、目的を明確にすること、目的をぶれないようにすること、これが出来れば、必ず良い方向に向かうと信じています。避妊教育をはじめ、日常診療においても目の前の患者さん、学生さんにとってより良いことを考えて伝える姿勢を持ち続けることができれば、これからの女性達の心身の健康が後退することはないと信じています。女性が元気であれば、子どもも、社会も元気です!少しでも、貢献できるよう、スタートしたばかりのクリニックで頑張っていきたいと思います。
【略歴】
1993年東京女子医大卒業、医学博士。東京女子医大産婦人科学教室助手、小川赤十字病院、湘南記念病院、東京女子医大青山女性医学研究所、武者医院副院長などを経て現職。東京女子医大産婦人科非常勤講師。