<21> 子宮頸がん予防ワクチン接種を機会に避妊教育を ― 聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック八田(千葉県松戸市) 八田 真理子 (2011.12)
子宮頸がん予防ワクチン接種を機会に避妊教育を
聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック八田(千葉県松戸市) 八田 真理子
「あら、大きくなったね。」
ソフトボール部の練習で真っ黒に日焼けした中学1年生のこの少女は、クリニック開業から私が取り上げた第一号ベビー。2010年10月から子宮頸がんワクチンの公費助成が始まり、見覚えのある母子健康手帳にも出会うようになった。
地域に根差した外来診療
産婦人科医である叔母と父の姿を見て育った私は、千葉県松戸市で父と共に産婦人科クリニックを開業して13年が過ぎた。7年前までお産も扱っていたが、現在は思春期の月経異常から子宮内膜症、不妊症、妊婦健診や婦人科検診、更年期障害と、地域に根差した幅広い外来診療を行っている。また大学時代から始めたエアロビクスは、趣味が高じてインストラクターの資格を取得。講演にエクササイズも組み入れ、来場者と一緒に汗をかいている(写真1)。
私が避妊教育ネットワークのメンバーになったきっかけは、地区の産婦人科医会の代表だった5年前、家坂清子先生を講演にお招きした際、推薦をいただいたことだ。当時経口避妊薬(以下OC)に理解のなかった産婦人科医や教育関係者も、説得力ある家坂先生のお話に感銘を受け、地域のOC周知に繋がった。 全国のネットワークの先生は皆パワフルかつ魅力的で、歌の上手な方ばかり。驥尾に付して、週1回のボイストレーニング教室に通い始めたが、いまのところその成果は確認できていない。
学校医として中高で講演
近年、千葉県においても人工妊娠中絶数が減少しているが、若年者のその数は少なくない。先日も、最終月経が分からず超音波診断で妊娠21週と判断できた15歳の少女が、市内すべての産婦人科に断られたと途方に暮れ、母親に連れられてきた。児童福祉課の協力により隣接市で中絶手術が施されたが、このようなケースを目の当たりにすると、地域医療の対応に落胆すると同時に、性意識の低い家庭への教育の甘さを痛感する。現在松戸市の性教育は、専門の助産師数人が忙しく学校を飛び回っている。産婦人科医の娘でありながら、性教育を受けた記憶のない私だが、学校医をしている近所の公立中学と高校での「命の学習」講演には、母親のような気持ちで臨んでいる(写真2)。毎年数人だが、お産で取り上げた子どもたちと再会できることは何より嬉しい。
正しい避妊知識の普及を
一方、長期不妊に悩む女性に「妊娠がこんなに難しいと思わなかった」と外来で泣かれたことがある。中絶経験のある彼女は、性に対して知識がなかったことを悔やんでいた。超少子化の進む中、日本の不妊治療の先が見えない。早い時期での正しい避妊教育こそが、将来の不妊リスクを減らせるのではないだろうか。OCは低用量ホルモン療法として、避妊以外にも月経困難症や子宮内膜症の予防、治療にも有用とされている。難治性機能性不妊症に子宮内膜症の存在がある。生殖補助医療治療中の女性の約4割がクラミジア感染症にかかっているというデータもある。
避妊に対する正しい知識を持つことで、自身の身体を大切にするようになって欲しい。しかるべき適齢期に自らの意思で妊娠出産の判断を下せることは、結果的に女性の幸せにつながると考える。
産婦人科デビューが好機
今年は未曾有の災害が相次ぎ、不安定な世の中にあるが、ここ千葉県から初めて総理大臣が出た。「温厚で義理堅く、愚直でぶれない」との評から、首相としての手腕に県民の一人として期待をしている。
「先生の注射、痛くなかった?」
はにかみながら頷く13歳の少女に赤ん坊の面影を見た。彼女の幸せを心から願う。
子宮頸がん予防ワクチン接種で訪れる少女たちの「産婦人科デビュー」は、私の思いを伝える千載一遇のチャンスと捉えている。ワクチン接種を機会に、子宮頸がんや性感染症の予防と避妊の正しい知識を得て欲しい。避妊教育ネットワークの一員として、責任の重みと課題の大きさに襟を正した。
【略歴】
1990年聖マリアンナ医科大学卒。順天堂大学、越谷市立病院、千葉大学病院にて研修。1993年松戸市立病院産婦人科。1998年ジュノ・ヴェスタクリニック八田開業。日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本マタニティフィットネス協会認定インストラクター。