若者たちに性の基本的な知識を

西口クリニック婦人科(福島県福島市)院長 野口まゆみ




私と性教育の関わり

平成7年に婦人科を開業後しばらくすると、若い方が多く受診するようになりました。彼女たちの悩みは月経に関することだけではなく、望まない妊娠や性感染症など性交に関わる問題が多いことに驚いたのが性教育へ関わる最初でした。問題が起きてから医療機関を受診するのではなく、性に関する基本的な知識を持って、トラブルになる前に対処できるようになってもらいたいという思いからクリニックの外へでて働きかけることにしました。

その頃福島県は10代の人工妊娠中絶率が全国3位ということで、教育や保健に関わる県の行政側でも性に関する教育に取り組もうと動き始めたところでした。福島県は面積が広く、各地域がそれぞれ立ち上がらなければうまくいかないということから、福島県産婦人科医会では県内各地で性教育講演に対応できる体制を整え、学校や地域の依頼にこたえてきました。また医師やコメディカルだけでなく、教育や保健行政に関わる人も思春期に関する知識や現状認識を深めていただけるように、年1回思春期保健研修会を開催しています。平成23年度で第7回目になりますが、避妊教育ネットワークの多くの先生方にも講師をお願いしています。


地域で活動する人との連携

相談コーナー紹介カード当クリニックは平成17年度から日本家族計画協会の思春期地方クリニック事業に参加させていただき、以前からやりたいと思っていた思春期相談を実現させることができました。この事業が終了した現在も思春期相談を継続しています。この事業に参加したことで、地域で思春期ピアカウンセラーを育てる活動をしているグループとのつながりが深くなりました。

思春期相談の記録を見ますと、性に関する知識が不足しているだけでなく、自分の居場所がないあるいはデートDVがあるにもかかわらず、そこから逃げられない若者たちそしてDVであることすらも気づかない若者たちが見えてきて、彼らが抱える問題の深さを見せられ、医療者がいかに若者たちによりそえるかが課題だと感じてきました。


当院を受診する若者たちにOCをすすめる

避妊教育ネットワークには平成18年3月当初より参加させていただいております。OCが発売されても、一般の方だけでなく産婦人科医の中でもあまり認識が深まっていないなど日ごろ少しやりにくさを感じていた中、全国には同じ志を持って診療されている先生方が多くいることに意を強くしました。その後出席するたびに参加者が増えるのに驚き、熱い思いを持っている先生方からエネルギーをいただいているところです。

避妊目的や性感染症かもしれないと受診した方はもちろん、外陰部がかゆい、月経痛、月経不順、子宮がん検診希望の方まで、とにかくピルのピの字もでてこない様々な訴えの方たちに対しても、ネットワークの先生方から伝授されたように「ところで」と切り出し、「製薬会社の回し者ではないけれど」とメリットを話し(もちろんデメリットはしっかり見極めつつ)OCをすすめています。

また「望まない妊娠を繰り返さないために」という厚生労働科学研究に参加させていただいてからは、中絶後できるだけ早期に確実な避妊をとの思いから、中絶決定時に避妊について話をし、術後早期のOC開始をすすめています。

 

最後に第36回性教育指導セミナー福島開催のお知らせ

平成25年7月(末頃を予定)に福島が担当で第36回日本産婦人科医会性教育指導セミナー全国大会を開催します。東日本大震災による原発事故のため、子どもやその親を含めて6万人以上が県外に避難、県内を含めると15万人超が避難しているという状況で、県民が多くの不安をかかえながら生活をしています。

そのような中、10年後20年後の将来を担う若者たちが未来に夢と希望を持ち、それに向かって進んでいけるように、性を知り、考え、自律して生きていくことを支える性教育をテーマにする予定です。前日は公開講座も考えておりますので、避妊教育ネットワークの多数の先生方の参加と全面的なご協力をお願い申し上げます。



【略歴】

昭和56年福島県立医科大学卒業、平成7年に福島県福島市に女性医師二人で「西口クリニック婦人科」を開業、福島県産婦人科医会常任理事(思春期保健担当)、日本産婦人科医会女性保健委員、福島県男女共同参画審議会委員、平成19年母子保健奨励賞受賞