低用量ピルとの出会い 2002年に銀座1丁目に小さな「都会の女性の保健室」を作って以来、そろそろ10年になります。 1997年、低用量ピルの認可をめぐって、女性医師や助産師、ジャーナリストや政治家などが集まって「性と健康を考える女性専門家の会」を結成してから、ずっと低用量ピルについての勉強や啓発を自分のメインテーマにしてきました。それまで総合周産期センターにいて、産科救急や合併症妊娠を取り扱ってきたわたしが〝このようなひどいトラブルがおこる前に予防できる知恵が現代医学のなかにあるのではないか?〟と探し求めていたものが、低用量ピルだったといえます。1990年、治験に参加して、「ピルを飲んだらなんだか体調が良くなった」ことを実感したわたしは、(なんだ、こんなに調子が良くなるなら、みんなどんどん飲めばいいじゃないか、わたしももっと飲みたい!)と思いましたが、ピル認可に関してずっとぐずぐず進まない政府の審議に不信感を抱いていました。そこに〝北朝鮮に先を越され、世界で最後の国になった〟ピル認可に関して、女性の立場から発信しないかというお誘いがかかり、海外の講師を呼んでのセミナーやシンポジウム開催、海外視察、情報交換、女性代議士との超党派の勉強会や政府への働きかけなどを通じて、はじめて〝社会を見る目〟が開かれていったように思います。 ピル開発の経緯に感銘 特に、マーガレット・サンガーが女性の自立を助けるためバースコントロール教育を進めたこと、女性が自分でできて安全で有効な避妊法を求めて、女性ホルモンを利用した避妊法が研究されたこと。それに、キャサリン・マコーミックという、やはり女性が資金援助をしたことなど、ピルが「女性が自分の人生を自分で選択できる」ことをめざして、先人たちが闘って開発されてきた薬であることに感銘を受けました。また、日本では、それが男性政治家、男性官僚、男性医師たちだけで、認可すべきかどうか審議されていることにショックを受け(またかと思いましたが)、自分が今後やるべき仕事の道筋が見えたような気がしました。
カウンセリング風景と診察室
その後、いろいろな試行錯誤を繰り返していますが、現在は、「女性のからだとこころとQOLの支援」ができる医療施設をめざして、女性総合クリニックをやっています。2002年に作ったウィミンズ・ウェルネス銀座クリニックは、銀座中央通りに沿った1丁目の銀行の上にあり、婦人科検診、乳がん検診、女性ドックと、婦人科、内科、心療内科の外来診療を行っています。2010年に作った女性ライフクリニック銀座は、2丁目にあり、産婦人科、皮膚科、泌尿器科診療と、手術、オーダーメイド分娩を行っています。運動プログラムや漢方カウンセリング、セミナーや勉強会の開催もしています。
「ピルスタンド」開設
そして、今年9月12日、念願だったデパート内に、女性の健康の窓口、女性ライフクリニック新宿をオープンしました。伊勢丹デパート本館地下2階の、ビューティアポセカリーフロアのエスカレーター横にあります。これは、伊勢丹の数少ない女性管理職たちの強い熱意と、わたしが以前から抱いていた「ピルスタンド」構想が合致したもので、ずっと前から計画がありましたが、今秋ようやく実現したわけです。 アポセカリーとは、街の薬店という意味だそうで、オーガニック化粧品、ハーブティ、漢方、オーガニックフードなどを取り扱うだけでなく、健康の知識を得るための書籍コーナーも、健康、検診、医療の相談窓口であるメディカルコーナーもあるわけです。 クリニックの診療は、女性ホルモン検査、ピル処方、ワクチン接種、相談や紹介などをメインとしており、婦人科内 診台はありません。婦人科、内科、皮膚科が交代で診療に出ており、女性弁護士による無料法律相談の時間もあります。予約なしの自費診療(数千円程度)です。 お買いもの帰り、ちょっと気になるけどなかなか相談できなかった症状など、これまで医療機関を受診できなかった女性も気軽に受診できるようにと願っています。本当に小さなスペースですが、皆様、おヒマな時にぜひちょっとのぞきにいらしてください。
【略歴】 1984年弘前大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院研修医、東京大学産婦人科学教室助手を経て、都立墨東病院周産期センター産婦人科医長。2002年ウィミンズ・ウェルネス銀座クリニック開院、2003年女性医療ネットワーク設立。女性の生涯にわたる健康の実現にむけて診療・支援・啓発に奮闘中。
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