<34>OCは「Life Design Drugs」 弘前女性クリニック(青森県弘前市)院長 蓮尾 豊
蓮尾氏 |
開業しはじめて思春期の現状に直面
21年間の勤務医の後、1995年12月に「思春期から更年期・老年期までの婦人科ホームドクター」を目指してJR弘前駅前に婦人科のみのクリニックを開業しました。とは言え、しばらくは閑古鳥状態でしたが、気がついてみたら100人を超える外来患者数となり、予想に反して10代患者が毎日15人から40人近く来院するようになっていました。10代患者の受診理由は月経痛や無月経、月経周期の移動なども多いのですが、性感染症検査や妊娠の疑い、中絶希望、緊急避妊ピル希望など性に関するトラブルによるものも少なくありませんでした。勤務医時代には全く認識していなかった思春期の現状に直面したわけです。産婦人科校医の委嘱 青森県では全国でもあまり例のない「産婦人科校医の制度」があります。
私も開業した年に県教育委員会から産婦人科校医の委嘱を受け中・高校生への性教育活動を開始しました。しかし、それまで性教育を った経験は一度もなく、性教育の必要性も感じていなかったのです。
生徒ひとりの僻地校でも性教育 |
当初、思春期の子どもたちの前で何を語ればいいのか、困惑と恥ずかしい気持ちだけでしたが、次第に思春期の受診が増え、受診理由の多くが性に関する知識の不足が原因になっていることから、「わかって欲しい」という気持ちが強まり、むしろ積極的に性教育に取り組むようになりました。現在年間講演回数は90回前後ですが、その中の50回前後が県内の中・高校での性教育です。
OCへの思い
1999年9月に欧米に遅れること約40年、低用量ピル(OC)が避妊薬として承認されその普及が期待されましたが、承認後13年を経過しても普及率は5%前後と低率が続いています。私は産婦人科医になった1974年からOCが承認されるまでの25年間、月経困難症や卵巣機能不全などの治療として、あるいは避妊目的として多くの女性に主に中用量ピルを処方してきましたが、ほとんどの女性たちにとって中用量ピルといえども何の問題もなくメリットの多い薬剤でした。このような臨床経験から、更に安全性の高いOCの登場は待望の薬剤でしたので、承認後数年で特別なことをしたわけではないのですが月に2000シートを超える処方数になっていました。人口の少ない地方都市なのにOCをすごく処方しているクリニックがある、という話がたぶんMRの方々から全国に伝えられたためか、OCに関心を寄せる産婦人科医からクリニック見学や講演の依頼があり、同じ思いを持つ全国各地の産婦人科医との交流が始まりました。
避妊教育ネットワークの仲間たち
そんな折、2005年、北村邦夫先生を中心として全国のOCに理解のある医師たちにより避妊教育ネットワークが設立され、私も世話人のひとりとして参加しました。発足時は18都道府県から26人でしたが、現在は35都道府県90人にまでメンバーは増加し、年2回開催される事例検討会ではOC服用事例や性教育などに関して熱い討論が繰り広げられています。日本産婦人科医会性教育指導セミナーで定番となったロールプレーはメンバー自ら出演し、OCの果たす役割を一般の方々にも伝えていますが、その熱演ぶりは年々研きを増すばかりです。また、日常的にはメーリングリストを通しての活発なやり取りがあり、情報と知識の共有に役立っています。
現在の活動、そしてこれからのこと
現在、OCや婦人科に関する24時間の電話・メール相談、中・高校での講演や全国各地でのOC普及活動、そして日本家族計画協会クリニックで月1回の診療などを行っています。これからも、確実な避妊だけでなく、月経トラブルの改善や適切な時期での妊娠・出産のための薬剤、それがOCであり、OCはまさに「Life Design Drugs」ということを多くの女性に、そして社会に伝える活動を続けていきたいと思っています。
【略歴】 1947年福岡県出身。1974年弘前大学医学部卒業。弘前大学医学部産科婦人科学教室入局後、国立弘前病院、むつ総合病院、三沢市立病院などに勤務。1992年弘前大学医学部産婦人科講師。1995年開業。日本産科婦人科学会専門医、日本思春期学会評議員、日本性感染症学会認定医、日本性感染症学会東北支部副支部長、青森県STI研究会代表世話人、青森県産婦人科校医。2009年日本家族計画協会会長表彰。2010年厚生労働大臣表彰。