熱きメンバーが支える避妊教育ネットワーク事情

さたけ産婦人科院長 佐竹 紳一郎

 

佐竹氏

前号で、本ネットワークの代表世話人である北村邦夫日本家族計画協会家族計画研究センター所長から、避妊教育ネットワークの概要と熱い活動内容の一端が紹介された。これを受けてのリレートークのスタートでいささか緊張しつつも、5年間の活動を通しての所感を本ネットワークの一員らしく飾ることなく記してみたい。

垣根を感じない同じ思い「女医さんはどこにいますか?」―私が性教育を始めた約20年前。研修医を終えて産婦人科診療に専念し始めた自分に性教育の依頼が飛び込んできた。経験もなく、今では本ネットワークでご一緒させていただいている北村邦夫先生や河野美代子先生のお話で学んだことを基にブルースライドをつくり学校に出向いた。

手探りでも必死の思いで話し終えた後、聞かれる質問は決まって「女医さんはどこにいますか?」。この時に感じる虚しさと無力感。男性医師のみが診察し多くの妊婦さんが通院する当院にも、今でこそ中・高校生が毎日のように訪れるが当時は違った。男・女である前に医師としての診療をするつもりの自分が受け入れられず、「○○医院に行ったら生徒が説教されて泣いて帰ってきた」というような話を突き付けられるとどうしようもなく悔しい思いを抱いたものである。

それから10年以上の月日を重ね、平成17年2月に富山市内で開業した。同じ時期に避妊教育ネットワークが立ち上がり、初回の集まりは開院直後で見送ったが、第2回のネットワークが開催された秋に東京へと向かった。足を踏み入れた会場で目にした光景は活気に満ちており衝撃が走った。

真剣な情報交換はもちろんのこと、自らの活動の苦労話や失敗談も率直に紹介して、それを互いに笑ったりアドバイスしたりで、とても熱く、そして温かった。そこには女も男もなかった。年齢も立場も関係なく、思春期からの性の健康上の問題を真正面から捉えて、その解決のために「自らが今できること」を模索して行動するエキスパート達が自らの思いを飾らず話し合っていた。

懇親会ともなると、分け隔てなく言葉を交わし、互いに助け合える関係を築いて帰る。「毎日の仕事で疲れ果てて、この会に来て元気になって帰る」。ある参加者の言葉であるが、目的を同じくした者達の集まりだからこその充実感や嬉しさが感じられることがこのネットワークの大きな特徴である。

 

さたけ産婦人科外観モーニングセミナー開催

 そんなネットワークの活動は北村先生が前号で紹介されている。ご自身が会長を務められた第49回日本母性衛生学会学術集会のランチョンセミナーでのOC啓発劇について述べられたが、その数時間前には避妊教育ネットワークが担当してモーニングセミナーを開催した。

テーマは「モヤッとをスッキリへ―目覚めのOCセミナー」。文字通り、OC処方についての漠然とした不安や抵抗感を話し合いの中で解消することが目的で、「副作用ばかり説明されると怖くなる」「乳がんは大丈夫?」「産褥はいつから勧められる?」といった内容を話し合った。150人の参加者は12テーブルに分かれ、全てに避妊教育ネットワークのメンバーが2人ずつ張り付いた。
 OC処方の経験豊かな20人以上の医師達が自らの経験をもとに様々な疑問に答えた。反応は上々であったが、手弁当で集まる当ネットワークの熱いモチベーションがあってこその成果である。

 

当院の取り組み

 避妊教育ネットワークの集まりに触発され、当院でも保健師、看護師とともにOCを中心とした避妊指導を行っている。当院での人工妊娠中絶症例は年間約130件程度で、分娩取り扱いは約500件である。中絶症例の約半数は経産婦が占めている現実を認め、思春期における避妊教育はもちろん、産後の避妊指導も重要と考え、OCとともにIUS(ミレーナ)など有効な避妊法についての啓発にも取り組んでいる。

 

最後に

避妊教育ネットワークは率直で垣根のない活動を展開しており、本会の趣旨が理解され全国にメンバーが拡大することを願いつつ、バトンタッチします。

 

 

【略歴】
富山県出身。昭和61年富山医科薬科大学(現富山大学)医学部卒。富山県立中央病院産婦人科に勤務後、平成17年2月に富山市内で開業。富山県産婦人科医会性教育委員。富山県被害者支援センター理事。