矯正医療との関わりから、女性が明るく健全に過ごせる社会を目指して

アトラスレディースクリニック(東京都杉並区) 塚田 訓子  

 

 

 

敷居の低い婦人科目指す

東京都杉並区のJR中央線高円寺駅前に開業し、もうすぐ1年になります。婦人科に対する負のイメージ(怖い、痛い、恥ずかしい等)をなんとか払拭したい、という思いで日々診療を行っています。意を決して来院してくれた婦人科体験がトラウマにならぬよう、当たり前のことですが診察は痛くないよう丁寧に、わかりやすい言葉で説明することをモットーにしております。女性たちが悩みを気軽に相談でき、明るく元気に帰っていけるような敷居の低い婦人科クリニックが目標です。

 

女子少年院との出会い

北海道の旭川医大を卒業後、1年間のローテート研修を経て、札幌医大産婦人科学講座に入局しました。性教育に取り組むようになったのは、今から10年ほど前、千歳市の女子少年院である紫明女子学院の医務課長を務めてからです。少年院では入院時に必ず性感染症検査を行います。それまで大学での診療が主で、子どもたちの性の現状を知らなかった私は、あまりにも多くの少女たちがクラミジアに感染していることに驚き、強い衝撃を受けました。

少年院と聞くと特別な場所のように思われがちですが、ひとりひとりはあどけなく普通の子どもたちです。その普通の子どもたちが、お小遣い欲しさに援助交際という名の売春を行い、やがてエスカレートすると性的刺激を求めて違法薬物を購入し、暴力団の資金源になっている事実……。彼女たちと接するうちに、これは少年院の中だけでなく、世の子どもたちみんなに忍び寄る危機なのだと認識するにいたりました。とにかく自分の身体を大切にしてほしい、避妊の仕方だけでも身につけてほしい、との思いから毎月1回の性教育授業を開始しましたが、子どもたちにちゃんと伝わっているのか、私自身も手探りの毎日でした。

クリニック待合室その後、東京のクリニックで勤務医として働くようになり、さまざまな勉強会を通じて、北村邦夫先生をはじめ、各地で性教育や低用量ピルの普及に熱く取り組む先生がたくさんいらっしゃることを知りました。避妊教育ネットワークの一員に加えていただいてからは、全国の先生方から貴重なお話を伺う機会が増えて勉強になるだけでなく、日々の診療や性教育に関する悩みを相談する場ができて、とてもありがたく思っています。これからも、よりわかりやすく子どもたちに伝わる性教育を目指して、修行の日々は続きます。

 

更生保護施設で講義

 「女性の健康を考える会」資料現在は、荒川区内の中学校で性教育を行うほか、7年前より更生保護施設静修会荒川寮で「女性の健康を考える会」の講師を務めております。更生保護施設は、刑務所から釈放された方や保護観察中で身寄りのない方、現在住んでいるところでは更生が妨げられるおそれのある方たちを宿泊させ、自立を援助することで再犯防止に貢献する施設です。少年院の子どもたちもそうでしたが、女性の犯罪の裏には男性との性的な問題が高い確率で関係しています。これを断ち切るのは非常に難しく、また違法薬物、売春などは再犯が多いうえ、自らの健康を害して長期の加療が必要となるケースも多いのです。

「女性の健康を考える会」では、ほかにも精神科医、弁護士、保健師などが講師を務め、健全な社会生活を営むためのプログラムを組んで講義を行っています。都内でこのような試みを行っている更生保護施設は現在のところ荒川寮のみですが、今後も積極的に活動の場を広げ、矯正医療と関わり続けていきたいと考えています。

紫明女子学院との出会いは、私自身の産婦人科医としての方向を決定づける貴重な経験でした。今後も高円寺の小さなクリニックでこつこつと診療を続けながら、不幸な性体験で心身のバランスを崩す女性が少しでもいなくなるよう、努力していきたいと思います。

 

【略歴】

1971年北海道稚内市出身。1999年旭川医科大学医学部卒。札幌医科大学付属病院、紫明女子学院医務課長、レディースクリニックぬまのはた医長等を経て、2010年より現職。静修会荒川寮「女性の健康を考える会」講師。