子宮頸がん予防ワクチン接種を機会に避妊教育を

聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック八田(千葉県松戸市) 八田 真理子

 

 

 

「あら、大きくなったね。」

ソフトボール部の練習で真っ黒に日焼けした中学1年生のこの少女は、クリニック開業から私が取り上げた第一号ベビー。2010年10月から子宮頸がんワクチンの公費助成が始まり、見覚えのある母子健康手帳にも出会うようになった。

 

地域に根差した外来診療

写真1 エクササイズを交えた講演産婦人科医である叔母と父の姿を見て育った私は、千葉県松戸市で父と共に産婦人科クリニックを開業して13年が過ぎた。7年前までお産も扱っていたが、現在は思春期の月経異常から子宮内膜症、不妊症、妊婦健診や婦人科検診、更年期障害と、地域に根差した幅広い外来診療を行っている。また大学時代から始めたエアロビクスは、趣味が高じてインストラクターの資格を取得。講演にエクササイズも組み入れ、来場者と一緒に汗をかいている(写真1)。

私が避妊教育ネットワークのメンバーになったきっかけは、地区の産婦人科医会の代表だった5年前、家坂清子先生を講演にお招きした際、推薦をいただいたことだ。当時経口避妊薬(以下OC)に理解のなかった産婦人科医や教育関係者も、説得力ある家坂先生のお話に感銘を受け、地域のOC周知に繋がった。  全国のネットワークの先生は皆パワフルかつ魅力的で、歌の上手な方ばかり。驥尾に付して、週1回のボイストレーニング教室に通い始めたが、いまのところその成果は確認できていない。

 

学校医として中高で講演

写真2 「命の学習」講演近年、千葉県においても人工妊娠中絶数が減少しているが、若年者のその数は少なくない。先日も、最終月経が分からず超音波診断で妊娠21週と判断できた15歳の少女が、市内すべての産婦人科に断られたと途方に暮れ、母親に連れられてきた。児童福祉課の協力により隣接市で中絶手術が施されたが、このようなケースを目の当たりにすると、地域医療の対応に落胆すると同時に、性意識の低い家庭への教育の甘さを痛感する。現在松戸市の性教育は、専門の助産師数人が忙しく学校を飛び回っている。産婦人科医の娘でありながら、性教育を受けた記憶のない私だが、学校医をしている近所の公立中学と高校での「命の学習」講演には、母親のような気持ちで臨んでいる(写真2)。毎年数人だが、お産で取り上げた子どもたちと再会できることは何より嬉しい。

 

正しい避妊知識の普及を

一方、長期不妊に悩む女性に「妊娠がこんなに難しいと思わなかった」と外来で泣かれたことがある。中絶経験のある彼女は、性に対して知識がなかったことを悔やんでいた。超少子化の進む中、日本の不妊治療の先が見えない。早い時期での正しい避妊教育こそが、将来の不妊リスクを減らせるのではないだろうか。OCは低用量ホルモン療法として、避妊以外にも月経困難症や子宮内膜症の予防、治療にも有用とされている。難治性機能性不妊症に子宮内膜症の存在がある。生殖補助医療治療中の女性の約4割がクラミジア感染症にかかっているというデータもある。

避妊に対する正しい知識を持つことで、自身の身体を大切にするようになって欲しい。しかるべき適齢期に自らの意思で妊娠出産の判断を下せることは、結果的に女性の幸せにつながると考える。

 

産婦人科デビューが好機

今年は未曾有の災害が相次ぎ、不安定な世の中にあるが、ここ千葉県から初めて総理大臣が出た。「温厚で義理堅く、愚直でぶれない」との評から、首相としての手腕に県民の一人として期待をしている。

「先生の注射、痛くなかった?」

はにかみながら頷く13歳の少女に赤ん坊の面影を見た。彼女の幸せを心から願う。

子宮頸がん予防ワクチン接種で訪れる少女たちの「産婦人科デビュー」は、私の思いを伝える千載一遇のチャンスと捉えている。ワクチン接種を機会に、子宮頸がんや性感染症の予防と避妊の正しい知識を得て欲しい。避妊教育ネットワークの一員として、責任の重みと課題の大きさに襟を正した。

 

【略歴】

1990年聖マリアンナ医科大学卒。順天堂大学、越谷市立病院、千葉大学病院にて研修。1993年松戸市立病院産婦人科。1998年ジュノ・ヴェスタクリニック八田開業。日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本マタニティフィットネス協会認定インストラクター。