ニッチ(隙間)だけど リッチ(豊潤)だよね、思春期

やすひウイメンズ・ヘルスクリニック(長崎県長崎市) 安日 泰子

 

 

 

産婦人科医の性教育

第1金曜日当院のオープンクリニック―男子大学生が内診台体験中「おもしろい薬ですよね」。思わず30歳前後の内膜症患者さんを内診しながらつぶやいてしまう。彼女は低用量ピル(OC)を3か月連続服用している。OC服用以降、彼女の月経痛はよくなっているが、ネックはOC休薬期間の出血開始時期の頭痛だった。当初2パック6週間連続服用を試みると、それがなくなるので、さらに3か月間連続服用していただいている。年4回1週間休薬、その間つまり年4回だけ出血がある。内膜症も(月経)関連頭痛も解決し、ご本人の満足度を高めたことで、私は処方の醍醐味を感じ冒頭のつぶやきとなった。

以前は避妊教育としてコンドームを強調していたが、今はライフセーバーとしてのコンドームとライフデザインとしてのOC、と両方を強調する。これは他ならぬこの避妊教育ネットワーク(NW)での学習の影響であった。そのメンバーのすごさ!驚いた。有名な方々、遠くから拝見したことしかない方々に、このリレートークでわかるように、さらに若くエネルギッシュな方々がそれに加わってくださっている。私自身も当院スタッフも有名な先生方と特別なパイプで繋がっていることがちょっぴり誇らしい。性教育というマイナー分野を長崎県で行っていると、性教育は大切といいながらちっとも体制として進まない現実に無力感を感じる。このNWに参加されているそれぞれが同様な状況で頑張っておられることを確認でき、また西の果ての長崎に元気に帰っていける。性教育がバッシングされて以降、日本の性教育の底支えをしているのはこの産婦人科医たちではなかろうか。


長崎に育つ性教育実践家

長崎性教協の仲間と雲仙温泉ではじけモード私が最初に性教育に関わる決意をしたのは河野美代子先生の講演であった。それは長崎県〝人間と性〟教育研究協議会(性教協http://n-seikyokyo.jp)の設立記念講演であった。それ以来、長崎県には性教育の語り手や実践家が育った。厚生労働大臣賞を一昨年受賞した開業助産師である中村まり子さん、10年前からの「からだ探検隊」や2年前「長崎〝障がい児・者の性を考える〟教育研究会」を立ち上げた長崎大学医学部看護学科教授の宮原春美さん、市民病院や開業医に所属しながら出前性教育に出かける助産師のみなさん、こういった仲間と育ちあった。

私も「かかりやすい産婦人科」を目指して8年前にクリニックを開業した。白衣を脱いで地域の講演に行くと、いかに産婦人科がかかりにくいか、という嘆きにも似た本音を聞かされてきたからだ。

当院はいわゆるビル開業で中絶や妊娠を扱わない設定である。娘に子宮頸がんクーポン券が来たので一緒にがん検診に来ました、といったふうに二世代で来てくださることが多くなった。月経が始まったら産婦人科をかかりつけに、セックスが始まったら必ず婦人科検診にと、実感を持って子どもたちにも語れる。 

 

思春期に関わり続けたい

思春期世代は「国の宝」である。スウェーデンのユースクリニックではOC、コンドームの無料提供、STD検査も無料、少ない人口を確保するためにこの世代の育成に力を入れている。日本から見ると羨ましい限りだが、20歳から始まる子宮頸がん無料クーポン検診開始、中高校生への公費子宮頸がん予防ワクチン、OCの一部保険認可、さらなるOC発売などこの数年間の動きは、小児科と産婦人科さらに内科との「隙間=ニッチ」領域にあった思春期に光をあてた。やはりこの世代に関わり続けたいと思う。

 

【略歴】

広島県出身、1979年東京女子医科大学卒業、同大学・長崎大学産婦人科医局勤務後、おび産婦人科、奥田産婦人科など非常勤勤務を経て2003年やすひウイメンズヘルスクリニック開業。長崎県“人間と性”教育研究協議会代表、長崎大学医学部非常勤講師