自己満足でも続けます

長岡氏宮益坂メリーレディースクリニック(東京都渋谷区) 長岡 美樹

 

 

 

悩み抱えた人に寄り添える医師に

私が学生の頃は、避妊教育はおろか月経のことも、おりもののことも教わる機会がありませんでした。母に聞くのもちょっと気が引けて結局悩みがあってもそのまま我慢して時がたっていったという感じでした。私が産婦人科医になったのは、「あの時だれかに相談できれば悩まなくともよかったのになあ」という自分の体験がきっかけになっているように思います。なんでもないようなことも本人にとっては大きな悩みになっていることもあります。知っていれば避けられる禍もあります。私ごときが大きなことはできないけれど、できるだけ悩みを抱えた方に寄り添える医者になりたい。これが私の原点です。

 

性教育、どんな形でも取り組み続けて

講義風景

性教育などの講演活動の始まりは、前職でのことでした。地域の高校から健康講座講師派遣の依頼が勤務していた病院に来て、院長先生から業務命令で出向くことになったのです。それまで外来で個別に指導することはあっても、学校など大勢の前で講演などしたことはなく、さあどうしようと試行錯誤の上、思いの詰まったスライドを作り講演しました。その後は口コミで講演依頼が来るようになり要望があれば出かけていくという形で経験を積ませていただいています。

 全くの手さぐりでのスタートでしたので、避妊教育ネットワークとの出会いは私にとって大きな支えとなりました。まずは勉強会に参加させていただき、性教育のスタンダードがどこにあるかを学ばせていただきました。講演の内容が一人よがりになっていないかいつも心配だったのです。

 学校では校長先生の性教育へのお考えの違いで要望にはっきり温度差が出ます。いまだに寝た子を起こすなというような学校もあります。講演後PTAと問題が生じてもいけませんので、内容設定には非常に気を遣い学校ごとに微調整して行っています。

 しかし、内容をセーブして行っても、終了後の質問コーナーではとても実践的なきわどい質問が出ることが多く、先生方も苦笑されています。

 とにかくどういう形でも取り組み続けることが大事だと思います。心配している大人がいるんだと知らせること、助けを求められる場所があるんだと知らせることも大きな役割です。

 

周囲の大人が知識を与え道しるべに

コンドーム私は昨年、東京の若者の街渋谷に小さなクリニックを開業しました。渋谷という土地柄か、緊急避妊の方、風俗のバイトをしていながら性感染症に怯えている方など色々悩みを抱えておいでになります。

 日々の診療の中で思うことは、もっとみんな自分のことを大事にして欲しいということです。性の場面での決定権を放棄していて、避妊も適当、性感染症予防も適当。無意識に自分を投げ出している人の多さに驚きます。

 しかし、この状況を嘆いてばかりはいられません。世間では中絶をした人、性感染症にかかった人は「ふしだらな生活をしているからだ」「考えて行動しないからだ」など自己責任を問う言葉で叱責されます。確かに、自分のとった行動の結果であるのだから自己責任であることは間違いありません。しかし、お説教は健康的な精神的成長を遂げた人には効果を発揮しますが、教育もされず、そうせずにいられなかった女の子たちには、刃でしかありません。むしろその切実な状況にこそ、我々大人は心を寄せなければならないのではないでしょうか。

 初交年齢についての統計では家庭に居場所がある子ほど初交年齢は高く、放任されている子は早くに体験するといわれています。寂しさを紛らわすための逃避行動だとすれば自己責任だけで済むでしょうか。家庭環境、学校教育など、一朝一夕に解決などできるはずのない問題です。

 そんな中、医師、養護教諭、保健師、先生など周囲の大人がたよりです。せめて寄り添って知識を与え、少しでも良い方向に向かう道しるべになりたいものです。

 自分に何ができるのか。情熱を失わず活動を続けていくには仲間が必要です。私にとって避妊教育ネットワークの先生方のご活躍は、モチベーションの維持に不可欠なものです。これからも会の一員として学ばせていただき、地域の方々のお役にたてるよう頑張っていきたいと思います。

 

【略歴】

1964年福島県生まれ。1990年日本大学医学部卒業。日本大学附属板橋病院産婦人科入局。関連病院勤務後、2011年5月宮益坂メリーレディースクリニック開業。日本産科婦人科学会認定専門医、母体保護法指定医。