子どもたちの現状に即した性教育を!

 
上村氏  

 

ウィメンズクリニック・かみむら(岡山県岡山市) 上村 茂仁
 クリニックを開院して9年がたちます。父が高知で開業していた産婦人科を継がず、岡山の個人病院の副院長として仕事をしていたら、いつの間にか父も母も居なくなっていました。そんな負い目があってか、「かみむら」の名前をクリニックに付け、岡山の駅前で開業しています。元々アメリカで骨の勉強をしていたので、骨粗しょう症や更年期障害専門のクリニックを開院しようと思い、始めたのですが、場所柄か患者は若者が多く全患者の3分の1が10代であるという、若者を無視できないクリニックになっていました。

   
 

講義風景

 

 

性教育とメール相談 

 「ここは若年患者が多いのでその現状を子どもたちに伝えて欲しい」、当院の患者でもあり、養護教諭をしている先生から依頼を受けたのが最初の性教育でした。更年期や骨粗しょう症の講演は慣れていましたが、生徒に話すのは初めてなので自分なりにアレンジして子どもたちにいかにわかりやすくするか、そんなことを悩みながら最初の講義を行いました。その時から子どもたちからのアンケートを全て送ってもらうようにして(先生が良いアンケートばかり選ばないように)、そのアンケートから内容を随時変更させてきました。したがって今も全く同じスライドを使用することが無いように努めています。  また子どもたちに理解してもらうためには何かインパクトが大切だ、ということから、いかに笑ってもらうか、ということを大切にしています。また1時間程度の性教育では学生が理解できない事が多いだろう、メールでの質問が出来るようにしようと始めた携帯メール相談は現在では1日50~100件に及ぶようになっています。そのおかげで今の子どもたちの現状、不満、悩みがリアルタイムで手に入るようになり、その情報を元に性教育の内容を作成することにしました。それが子どもたちには好評のようで、性教育の依頼が徐々に増えてきました。

 現在は小学1年生から大人までを対象に全国で講演しています。そうは言っても一人医師のクリニックを経営しながら行っているわけですから、現在年間80校行くのが精一杯です。 デートDV  クリニックには中絶や緊急避妊、性感染症を目的に中・高校生が来ます。そんな子に質問すると案外、性の知識は持っていることに驚きます。ただ彼氏に求められると断れない、嫌われたくないからなどの理由から無防備なセックスを受け入れてしまう現実があります。彼氏だから、彼女だから、相手と約束したから、彼がいないと寂しいからなどの力が使われてDVの関係が強要されている現実があります。性教育で知識を与えてもこの現状を何とかしないと、望まれない妊娠も性感染症も予防することができません。私が性教育にデートDV予防教育を入れるようになったのはそんなことからです。  全ての恋愛は一旦DVの方向に傾きます。ただそれを押し戻す力があるかどうかで付き合い方は決まります。普通の恋愛であれば戻す力、押す力が行き来しながら全体的には釣り合ったベクトルになるはずです。逆に押し引きしながらも最終的にはDV方向に押し込まれている関係がデートDVです。当院では患者が緊急避妊、性感染症、人工妊娠中絶を繰り返す場合にはデートDVの関係があることが多いようです。DV防止教育は人権同和教育にも結びつくので、この観点から学校にアプローチすれば性教育の授業を受け入れて貰いやすいと戦略的に良いこともあります。  現在はピアのグループを育てながら一緒に性教育を行ったり、子どもたちに大人になった時にこんな風に子どもを育てて欲しいと将来の子育てについて話したり、毎日が創意工夫の日々です。

 【略歴】 昭和34年3月15日生まれ。高知県土佐高校、川崎医科大学卒業。平成16年岡山駅前で女性診療クリニック「ウィメンズクリニック・かみむら」を開院、性教育・デートDV講演活動、メール相談、ピア育成(現在20人ほど)なども頑張っています。