性感染症予防から避妊教育へ 

社団法人いはらき思春期保健協会 和田 由香




「『健やか親子21』が始まれば、経口避妊薬(ピル)の良さが認められる!」。私は、ずっとそう思ってきました。しかし教育関係者や保護者は取り組みすら知らない様子。「十代の人工妊娠中絶を減らすため市町村で取り組みを」と提言しても、茨城の子はみんないい子だ、悪いのは都会の子だ、の一点張り。地域の大人には思春期保健の現状が認識されていなかったのです。

その結果、十代の人工妊娠中絶率が全国で前年と比べ下がった年でも茨城と埼玉は上昇。ピルをよく知らない子にどう情報提供するか、作戦を考える日が続きました。


大人もピルが嫌い

若者たちから話を聞くうちに、ピルについて保護者が反対する、学校の先生がよく思っていない、ということがわかりました。子どもたちが困った時に頼りにする身近な大人がピルにいい印象を持っていないのです。また、一番の情報源である先輩や友達は、相変わらずピルは太る、ヒゲが生える、声が低くなる、毛が濃くなる…のオンパレード。誤解、偏見、風評被害がこれほどまでに広がっているのか、と愕然としました。


一緒に学ぶしかない!

学ぶチャンスのない大人と子どもに学習の機会を設定し、共に学ぶためにどうしたらよいでしょうか。

性教育をあまりよく思っていない大人でも、エイズ対策の必要性は認識しています。そこで、中学生・高校生の性の逸脱行動や累積性交経験率は話題にせず(性教育という言葉も使わず)、エイズについて考えるエイズ予防講演会を各地で開催しました。

性感染症予防を学んでいくと、直接接触・接触感染という感染経路に詳しくなります。感染経路を意識するうちに、ウイルスを通さないコンドームを理解するようになりました。


次第に質疑応答に変化が

変化は講演会の質疑応答で顕著に表れました。「使う?or?使わない」から「適正な使用」に関する質問が増えたのです。

“3億いる精子の中には気が早いやつがいて射精の前にも出てきている”と伝えると、質疑応答では「じゃあ、いつ使えばいいんですか?」「途中からじゃ病気もらうし妊娠させますか?」という質問が出ます。女子も「安全日はいつですか?」という質問から「コンドームを使ったのに妊娠したケースがあると聞いたんですけど本当ですか?」という質問に変わりました。

性感染症予防を学んだ結果「コンドームは毎回・必ず・最初から」と「確実な避妊はピル」にたどり着きました。


保護者も誤解に気付いた

思春期・FPホットラインやガールズナビ、Dr.北村のJFPAクリニックが掲載されている 県内の高校生に配布されたクリアファイル。講演会では保護者や地域の理解を得るため参加を呼びかけ、終了後に第二部として保護者対象の時間も設定しました。

“セックスのあとピョンピョン跳べば妊娠しない”“外出しなら大丈夫”など子どもたちの周りの誤解を説明するうち、保護者同士も「自分が昔思っていた誤解」を話題にするようになりました。月経痛のときに鎮痛剤をのむとクセになる、将来赤ちゃんに悪い影響がでると言われ、授業中につらい思いをした話などです。保護者同士で話すうちに、「ピルは身体に悪いのか?太るのか?」という質問が出て、やっとピルの話題を受け入れてもらえるようになりました。

誤解が解けて副効用を学ぶうちに「まず親が先に学んで、いいタイミングで話してあげたい」という意見がでました。

相談体制の充実が課題だったので、様々な資料に電話相談窓口を掲載しました。今では「高校生がピルのんで大丈夫なの?」という教員も減り「先生はわからないから思春期ホットラインで聞いてみたら」と言ってくれています(左写真)。

今、困っていることは一部の地域で「ゴムあり外出し」が流行っていることです。腟外射精は妊娠も性感染症も防げない、とわかっているゆえの行動です。滑脱や破損につながることを説明しても「心配だから」という返事。

コンドームとピル(確実な避妊)を両方選択し、二重防御してもらうための声かけを検討しているところです。


【略歴】

社団法人いはらき思春期保健協会理事。茨城県エイズ対策委員。茨城県青少年健全育成審議会委員、第23回国民文化祭茨城県企画委員はじめ「医療界と教育界の連携の在り方」検討会委員、「青少年の社会的自立に関する懇談会」委員、県教育庁幹部職員研修講師などを歴任。日本思春期学会理事。上級思春期保健相談士。