女性が賢く健康に人生を送るためのサポーターとしての婦人科を

よしの女性診療所(東京都中野区)院長 吉野 一枝

 

 

 

この度の東日本大震災で多くの方が犠牲になられたことに深く哀悼の意を表します。また被災され不自由な生活を続けている方々にもお見舞い申し上げます。避妊教育ネットワークのメンバーも各地で被害に遭いながらも懸命に日常の診療を続けています。ネットワークの強い絆を感じながら、1日も早く復興ができることを祈ります。

 

避妊教育ネットワークとの出会い

クリニック診察室私は2003年8月に東京都中野区に「よしの女性診療所」を開設しました。開業は計画していたものではありませんでしたが、婦人科が女性のためにできることがもっとあるはずという思いは大学の医局時代からずっと持っていたもので、開業を期にそれが実現できる可能性が広がったと感じています。

開業当初は経口避妊薬(OC)の処方もさほど熱心にしていたわけではなく、性教育も全く経験なく、ただ患者さんたちの訴えに向き合って、丁寧に聞き続けることを心がけていました。開業すると、ともすれば孤立しがちになってしまうことを懸念し、いろいろな勉強会、研修会には積極的に参加するようにしていました。

そんな中、長野日赤病院時代に一緒に働いていた渡邉智子先生の誘いで「避妊教育ネットワーク」に参加することになりました。そこには全国から熱い思いを持つメンバーが集まっていて、どうしたらこの日本の現状を変えられるか、いかにOCを普及させるか、正しい避妊教育を行っていくか、を話し合っていました。そこに参加し、全国の仲間の存在を知り、情報交換するうち、婦人科は女性の一生のサポーターであると思うようになりました。

 

OCから避妊教育へ

クリニック外観避妊教育ネットワークへの参加や、スタッフと共にOCセミナーに参加するうち、クリニックでのOCの処方量は右肩上がりに増えていきました。最初は月20~30シートだったものが、徐々に増えて、最近は1000シート前後が毎月出ています。

OCをすすめる中で、OCに対する偏見・誤解がいかに強いかを思い知りました。避妊が必要な高校生に処方したら「母親に反対された」といって戻ってくる、などということはよくありました。また「太るから」「副作用が怖い」「妊娠できなくなる」などの理由で服用を拒否されたり。「ピルって怖い」という子がタバコを吸っていたり。その中で、正しい情報が伝わっていないことが問題なのだ、ということに気付き、やはり避妊教育の必要性を痛感しました。

ちょうどその頃、都立高校の養護教諭の先生から「うちの高校で性教育をしてもらえないか?」という申し出があり、経験もなかったのですが思い切ってお引き受けしました。区の保健所で「女性の健康」についての講演をする機会はそれまでにもあったので、そんな感じでと思ったのですが、デビュー戦は大変でした。ちょうど校舎の建て替えで教室が使えず、真夏の体育館(それも古い建物で冷房も無く)で1時間半、汗ダラダラになりながら話をしたのですが、2年生全員で約150人が私語や居眠りで、監督の先生の「私語はやめて!」という大きな声が3分に一度という感じでした。

それでも終わった後、女子が数人駆け寄ってきて「ピルっていくらくらいなんですか?」「緊急避妊って3日経ったらもうダメなんですか?」と質問をしてくれました。やはり自分の問題として真剣に聞いてくれたんだ、と思いました。養護教諭の先生からも「男子は聞いてない振りをしているだけですよ」と言われました。感想文では「コンドームの具体的な使い方がよかった」という男子が相当数いました。

 

女性の健康のために

日本は女性の健康が大切にされていない国だと思います。OCや緊急避妊薬の認可も世界から遅れること長く、国家予算は女性の健康には振り向けられていません。教育も女性が自分で健康な人生を送るための正しい知識を充分伝えてはいません。本来これは「医療」「教育」「行政」が一体となって取り組んでいかなければならない問題ですが、それを待っていては間に合いません。私たち一人ひとりが今何が出来るか、を考え実践していくことだと思います。

 

【略歴】

東京都出身。高校卒業後広告制作の仕事に従事、32歳で帝京大学医学部入学。1993年卒。東京大学医学部産科婦人科、愛育病院、長野日赤病院、藤枝市立病院などに勤務。2001年臨床心理士資格取得。2003年8月より現職。NPO法人「女性医療ネットワーク」理事。「性と健康を考える女性専門家の会」運営委員。