少しでも多くの人に正しい知識を伝えたい 

宮崎クリニック(静岡県富士市)副院長 宮崎千恵子

 

 

 

 

性教育を始めたきっかけ

平成12年に消化器内科医の夫と内科・婦人科のクリニックを開業しました。病院勤務時より10代の受診者が多く、驚いたのはその性交経験率の高さでした。腹痛で初診した時には破水して分娩直前だった17歳、一人で三つの性感染症に同時に感染していた16歳などを目の当たりにし、性教育の必要性を痛感しました。

しかしどのように行動をおこしたらいいかわからないまま開業して2年が経ったころ、ある小学校から「薬物とタバコの予防教育」そして「エイズ」の話もしてほしいと依頼が舞い込んできました。診察室で待つだけではだめだと思っていた矢先に、願ってもない依頼でした。依頼された内容に加え小学生向けの性の健康教育も盛り込み、手探りで行った初めての思春期講座は幸い好評でした。それがきっかけで養護教諭やPTAの研修会で思春期の性の問題を話す機会を得ることができました。「この話は必要だ」と思って下さった小中高校から子どもたちへの講演依頼が増え、木曜日の休診日ごとに学校に出向き、現在に至っています。そのような中で、県立高校の学校評議員として教育の場に参加する経験も致しました。

平成16年に北村邦夫先生からお誘いがあり、「思春期地方クリニック事業」に参加することになりました。その翌年に「避妊教育ネットワーク」が設立され、第1回検討会から参加させて頂いています。自分一人では、何をどのように、どこまで話せばいいのか悩むことも多かったのですが、このネットワークで志を同じくする多くの先生方とお会いすることができ、子どもたちに伝えるノウハウを学ぶことができています。声を掛けていただいた北村先生には心より感謝しております。

 

クリニックや学校を超えて幅広く啓発したい

ラジオの収録風景避妊教育ネットワークに参加し始めたころ、富士市が企画し、設立を主導した「コミュニティFM ラジオf」が開局しました。OCや思春期のことに限らず、婦人科疾患についていわゆる「都市伝説」のような誤った情報を信じている患者さんが多いことが気になっていたので、正しい知識を広く啓発するために開局時より番組企画に参加しました。番組名を「On air! Lady's Clinic」と名付け、ナビゲーターとの会話形式でリスナーから寄せられた質問に答えたり、こちらで決めたテーマを4~5回ぐらいのシリーズで解説したりしています。今年で6年目になりますが、話題は尽きず、「継続は力なり」をモットーに富士市近辺の方に情報を送り続けています。 

中学校での講演風景いろいろなテーマを話した中で、最も反響があったのはなんと「お父さんお母さんのための性教育講座」でした。子ども向けの講演やPTAの研修会に参加される保護者は限られています。「参加されない保護者にこそ聞いてほしい内容だった」というのは、講演会の後、校長先生がよく口にされる言葉です。講演会に足を運べない保護者の方や、ひそかに悩みを抱えている女性が、ラジオから流れてくる情報を小耳にはさみ解決の糸口になるような情報を発信し続けていきたいと思っています。


子どもたちに幸せになってほしい

性教育には評価する指標はなく、はっきりとした達成目標もありませんので、正直なところ時々無力感に襲われます。しかしきちんと伝えれば、性の落とし穴につまずいて人生が変わってしまうことを防ぐことができる可能性は高まるはずです。

「今日、私がここに話をしに来たのは、皆さんに幸せな人生を送って欲しいからです」。子どもたちに話をする最初にまずこう語ると、「性の話」と聞いて少しにやついていた生徒が意外そうな顔をします。この中の一人でも二人でも人生の分岐点で今日の話が役立つように、これからもまっすぐ子どもたちの目を見て話していこうと思います。

 

【略歴】

1963年福島県出身。1988年新潟大学医学部卒業。新潟大学医学部産科婦人科学教室入局後、県立六日町病院、厚生連長岡中央綜合病院、厚生連相模原協同病院等勤務を経て2000年4月より現職。静岡県産婦人科医会性教育対策・STD委員会委員長、精中委マンモグラフィ読影認定AS、撮影技術認定A、施設画像認定A、JABTS乳房超音波試験A評価を取得しており、乳がん検診にも力を入れている。