ありのままの自分でいられる場所としてのクリニック

医療法人裕生会 丸山産婦人科医院(長野市) 渡邉 智子

 

 

 

明けましておめでとうございます。今年は安心して暮らせる良い年になりますように。

3代続く産婦人科医院

長野駅から徒歩で5分という場所に、祖父と父が開業した当院は、私と弟で産婦人科医としては4代目、開業してからは3代目になります。ですから患者さんも親子、孫と代々通ってくださる方もいて、30代前半という若さで引き継いだ私は、スタッフも患者さんも父から譲り受けた、大切な遺産と思い診療してきました。引き継いで10年を越え、やっと自分の目指す医療の形が見えてきたところです。

避妊教育ネットワークとの出会い

男子学生の教育入院知識なく性行為に及び、妊娠、中絶する方や性感染症にかかる患者さんと接することで、避妊教育や性教育の重要性を痛感し、性教育を始めて間もなく、この避妊教育ネットワークに参加しないかと北村邦夫先生にお声をかけていただき、初回から出席しています。ここでは今までほとんど評価されなかった自分の活動が、初めて評価され、さらにもっと積極的に活動している産婦人科医が全国にいることを知り、自分自身の心の支えになっています。

患者さんと作り上げる活動

当院には私設の「北信母性保護相談所」が父の代からあり、所長の私以外に保健師2人、助産師2人が勤務しています。医院と連携して、患者さんのいろいろな相談に対応しています。当院独自の活動としては、10代で妊娠した女性が産むか産まないかを決めるために、1週間医院に入院し、出産・育児の勉強をする「教育入院」、男女を問わず、産婦人科の仕事や妊娠・出産に関心がある学生を通院させながら勉強させる「教育通院」、性同一性障害の患者さんと活動する「レインボークラブ」、ソフロロジー式出産法を軸に、妊娠中から母性を育むために、丁寧に相談にのり、安心してお産に臨めるような支援や、出産後も「1歳の誕生日会」「ヤングママの会」「コスモス(高齢出産)の会」などを開催し、育児の相談にのるような企画を行っています。今までは女性向けの支援がほとんどでしたが、最近男性の教育通院を行い、男性向けの企画も今後考えていくべきだと感じています。「レインボークラブ」は活動を始めて8年ほどになりますが、最近は10代の学生さんの参加も増え、それに伴い教育委員会からの依頼で、性同一性障害についての講演依頼も来るようになりました。

アフリカ母子保健研修の受け入れ対外的には様々なテーマでの講演、長野保健所と協力して、大学生のピアカウンセラーの養成と活動支援、性犯罪被害者対応、ジョイセフから依頼される、世界各国の母子保健・思春期保健を学ぶ研修生の1週間の受け入れなどがありますが、どの活動も患者さんと共に悩み、考えて作り上げたものです。そして何より、弟と医院のスタッフ全員が、これらの活動に協力してくれるからこそできることです。

 

ありのままの自分でいられる場所 

 産婦人科は、患者さんの人生や生活に密着した科です。病気だけではなく、家族関係や人生観などに治療そのものが左右されます。ですから良い時もそうでない時も、ありのままの自分がさらけ出せる場所でなくては、本当に患者さんのニーズに適した治療はできません。患者さんが恥ずかしいと思っている問題は、こちらがより熱心に考えることで、相談しやすい雰囲気を作り、私自身の体験談を話します。私自身、ありのままの自分を患者さんに見せ、失敗を笑い、成長を褒め、時に叱咤しながら、これからも私は患者さんたちと共に歩んでいける、そんな医療の実現をめざし、小さなことを少しずつ、積み上げていきたいと思います。

 

【略歴】

1968年長野県生まれ。聖マリアンナ医科大学卒業。長野赤十字病院にて2年間スーパーローテーションで学び、その後産婦人科を専攻する。1999年12月より現職。日本ソフロロジー法研究会指導医。日本子ども虐待医学研究会理事。児童相談所アドバイザー。長野県性犯罪被害者支援分科会委員。ながの子どもを虐待から守る会運営委員等