「ライフ・デザイン・ドラッグ」を女性たちに

 
南淵氏  

 

林間クリニック(神奈川県大和市) 南渕 芳
日本家族計画協会と性教育  患者さんたちの本音に真剣に向き合いたいと思ったのは、今から15年前、卒業後15年目で大和市の民間病院に移ってからだった。それまでは私自身が大きな歯車に振り回されていたせいだろう。この時から、患者さんというより、ごく普通の、社会に暮らす女性たちすべてが思い悩む様が目に飛び込んできた。「何ができるのか?」そうあがいていた私を救ってくれたのがこの「家族と健康」だった。
日本家族計画協会の思春期保健セミナーを修了し、中高年女性保健セミナー等にも集中的に参加した。パワー溢れるコメディカルの方たちに交じって各分野のスペシャリストから系統的に講義を受けることができたのは、目からうろこの連続、至福の時間だった。北村邦夫先生をはじめとする社会に発信できる先生方の姿がまぶしかった。  その後長らく、日々の診療だけで満足していた私が性教育を本格的に開始したのも、協会のSRH(セクシュアル/リプロダクティブ・ヘルス)セミナーのおかげだ。学校と地域の連携をテーマに阿部真理子先生(大和西高校養護教諭)が登壇されていたのだが、勤務先に近いこともあって、先生の退任後の女子の部を担当することになって、6月に3回目の講演を終えた。
ネットワークとの繋がり  
 念願だった長女の高校でのOC(低用量ピル)の講演も実現し、少しずつ話をする機会が増えかけた頃、避妊教育ネットワーク(NW)主催の「今日から役立つ避妊教育」に参加した。現場の先生方の熱意と工夫に圧倒され、少しでもその域に近づきたいと願っていた時に、植田啓先生の御紹介でNWに加入させていただくことができ、もうすぐ2年になる。その後、NWに在籍し新しい正確な情報を提供できているという自信が大きく作用してこの間のOCの処方数は格段に伸びた。  が、今年に入って、何のリスクもなかった患者さんに血栓症を経験した。青天の霹靂だった。予防する手立てはなかったのか? 前兆の説明が行き渡っていたのか? もっと早期に発見できなかったのか? 自問自答の日々が過ぎ、漸くネット上で事例報告をした時、憧れの先輩家坂清子先生から、症例を共有し今後の対策を親身に具体的に指導してくださる温かい助言を頂いた。この時、自分がNWの先輩方の情熱やこれまでのご苦労や女性たちに支えられていることをしみじみと感じた。OCの歴史も脳裏に蘇り、万感胸に迫った。おかげで、また前を向くことができた。  現在、その方の症状は幸いにも軽快してきているものの、OCが使えないことで体調が芳しくなく、対策に苦慮している。蓮尾豊先生のスライドで「ライフ・デザイン・ドラッグ」という表現に出会って以来、この言葉を性教育講演のキーワードとさせていただいているが、人生設計も生活の質の改善も自分の掌中に収めることができるOCは素晴らしいと実感している。この恩恵を一人でも多くの女性が安心して享受できるよう、性教育や講演の場で、臨床の場で、機会あるごとに情報を伝え、漏れのない臨床システムを作っていきたい。
 私の活動はまだ始まったばかりで、NWの先生方の足元にも及ばない。しかし、この会の熱気を傍で感じているだけではいけないと引っ込み思案の自分を奮い立たせている。先の高校の男子の部の担当でもある、コンドームの達人岩室紳也先生に教えていただいた「愛の反対は無関心」というマザーテレサの言葉をいつも中高生に紹介しているが、自分への戒めの言葉でもある。
【略歴】 1983年奈良県立医科大学卒業、同大産婦人科医局入局。奈良医大NICU、Royal Hospital For Women Newborn Care Center(Sydney)等で新生児科医師として勤務。湘南鎌倉総合病院産婦人科、大和成和病院婦人科勤務を経て2011年2月より現職。医学博士、日本産科婦人科学会専門医、性教協神奈川サークル会員、思春期保健相談士。