片桐氏  

30年前頃の思い出話です。  分かり易く、楽しく、忘れない、そんな性教育講話にするために、工夫・努力しました。高等学校の性教育では、標語や川柳を使って、以下のように話を展開しました。

「人は人の上に人をのせて人を造る」  これは、福澤諭吉著「学問のすすめ」の巻頭文からのパクリ。作者不明ではあるが、今日の性教育関係の方々が、広く使っている素晴らしい性教育標語です。
「性交は失敗のもと」  学校の先生方は、生徒に対して、「失敗は成功のもと」という標語を汎用します。私が、性教育で使う標語はその逆です。「性交は失敗のもと」です。ヒトは非常に妊娠し易い哺乳類です。特に中学生・高校生は、最も妊娠し易い時期です、と話を続けます。

「気を付けろ、そのイッパツで母になる」  図書出版社、1983年刊行の単行本「マジメなはなし」(徳田祐子著)から入手。軽い気持ちでセックスをしても、一旦妊娠してしまうと、「ヒトの命は地球よりも重い」等と言われる事もあります。  1985年頃の日本思春期学会、日本母性衛生学会等で、繰り返して披露しました。しかし、発表の度に、「品性に欠ける」、「女性蔑視も甚だしい」等の、激しく、厳しい、御批判を頂戴したことも事実です。  この標語は、その後、全国的に有名になりました。そして、「その一発でチチになる」、「その一滴で子が出来る」等に、進化、発展しました。
「気を付けろ、精子は急に止まれない」  元々は交通標語の「車は急に止まれない」です。アダルトビデオを見ると、画面の中の男優さんは、射精の直前に、器用にペニスを引き抜いて、オッパイの谷間等に、射精します。しかし、このタイミングが、非常に難しい。性交渉の初心者は、アダルトビデオの様には上手くいかない。最初から、キチンとコンドームを付けないと危ない。
「川は四万十、酒は飲まんと、ゴムは付けんと」  「コンドームを、最初から、キチンと使いましょう」という呼びかけには、様々な地方バージョンがある。高知県四万十市(当時は中村市)の産婦人科医から、性教育標語・高知県地方版を教えていただいた。
「知ってるかい、エイズの前にクラミジア」  クラミジアに感染した彼女は、エイズの名前を知っていても、エイズの前に感染する性感染症・クラミジアについては、その名前を知らない。  クラミジアに感染するような、複数の相手とコンドーム無しの無防備な性交渉をしていると、クラミジアと同様、エイズにも感染する危険性が高くなる。
「みんなで作ろう友達の輪、作っちゃならないクラミジアの輪」です。
「微笑みと、感謝で満ちた触れ合いを」  性は、心と身体のコミュニケーションです。お互いに、信頼関係のあるカップルが二人共希望して、性交渉をすることになったら、安全で良いセックスをして欲しい。お互いに、微笑みと感謝の気持ちで満ち溢れた触れ合いにして欲しい。後日「妊娠?クラミジア?」と悩まないように。くれぐれも、「クラミジア、貰ってしまってウラメシヤ」とならないようにして欲しい。
***  普段の性教育で使っている標語は、その他にも沢山あります。  男の子用の性教育標語には、「男は包茎、剥ければオーケー」、「包茎は、剥いて、洗って、また戻す」、「朝までに何回やれるかマスターベーション」、「とばしたい、抜きたい気持ちにブレーキを」等があります。  また、書かせていただく機会があったら、続編を綴りたい。
【略歴】1947年山形県出身。1973年弘前大学医学部卒。青森労災病院、国立弘前病院等に勤務。2011年より現職。日本産科婦人科学会専門医、日本思春期学会評議員。1998年第20回母子保健奨励賞受賞、2005年第9回松本賞受賞。