<3> 娘たちに「山形っていいべ~」といえるように ― さとこ女性クリニック院長 井上 聡子 (2010.06)
娘達に「山形っていいべ~」と言えるように
さとこ女性クリニック院長 井上 聡子
山形の女性達のために
東北初の女性知事誕生、「おくりびと」アカデミー賞受賞、「天地人」人気、2009年は山形ブームでした。それまで、売りはさくらんぼと「おしん」だけ。どんよりした日本海側の気候を反映するような根暗な田舎気質……。私は若い頃、山形が嫌いでした。将来は山形を出るぞ!と思っていました。
その夢は破れ、地元の大学を卒業。研修病院で出会った患者さん達から、思い上がった自分の浅はかさとこれからやるべき事を教えてもらいました。我慢の末来院した時には、すでに手遅れのがんだった方……。子どもと夫と義父母の世話に追われ、自分の事はいつも後回し、こんな辛抱強い女性達が山形を支え、おいしいお米を作っているのだと気づきました。
誰にも相談できず出産せざるを得なかった中学生、パートナーが不特定で性感染症の治療も追いつかない高校生、極めつけは平成10年十代の人工妊娠中絶率全国第3位!山形の女性達がこれ以上傷つかないために、大学院生の頃から正しい知識の出前(性教育講演)を始めました。
OCの普及に尽力
すべての女性の身近な相談役になりたい、誰にも気兼ねせず講演に出かけたい、と開業してまもなく6年、診療では低用量ピル(OC)の普及に力を入れています。最近、ひと月の処方数が1000シートを超えました。当院では思春期世代の処方率が高く、中学生の来院者の内32・5%に処方し、高校生では同60・3%に上ります。そのほとんどが月経不順、月経痛といった月経トラブルの改善目的で、避妊も兼ねているのは処方を受けたユーザーの41・3%です。同時に、にきびの治療や月経移動(スポーツ大会や受験等)と、OCで一石二鳥・三鳥の効果が得られています。
OCの普及にはスタッフの協力が欠かせません。服薬開始の指示は私が出しますが、服薬指導からマイナートラブルの対応、時には人生相談まで、きめ細やかにOCユーザーを支えています。スキルアップのため、研修会等への積極的な参加を促しています(写真1)。
娘に同伴してくる母親世代は、OCに良くないイメージを持ちがちですが、共感しつつ、十分な説明をすることによって一度味方につけると、その後は強力なサポーターになってくれます。自分自身のセクシュアリティを見直し、更年期を活き活きすごすヒントになるようで、親子でのOCユーザーも多いです。母娘で性について語ったり、婦人科を受診したりという事は、山形の風土では敬遠されがちでした。それがOCというツールを得る事によって、理想が現実になりつつあります。
親と子へ性教育活動
毎週木曜日の午後を性教育講演活動に充て、小学校から大学、保護者向けに年間30数校回ります。「自分でしっかり考えて行動できる大人になりたい」「山形の中絶率が高かったなんて驚き!私は将来望んだ妊娠をしたいから、友達に流されて軽い気持ちで性交なんかしません」。こんな嬉しい感想がある一方、正義感の強い世代なので、時には辛辣な意見ももらいます。「気をつけろとか言うけど、お金出して高校生を買う大人が悪いんじゃん。その人たちに今日の話聞かせてやってください」「自立した大人なんてホントにいるのかな?」「こんな偽善やってて辛くないですか?」。
私も含め親世代は、女子だけが初経教育を受けた程度で系統的な性教育を受ける機会がありませんでした。親同士、もう一度というか大人になって初めて、性について語ったり学んだりする講座も私は大切にしています(写真2)。
自分の住む国や町、そして自分自身のことを、愚痴って諦めるのは簡単です。高校生に「偽善」と言われて返す言葉がなかったけれど、自分に出来る事は何か自問自答しながら、これからも性教育に携わっていきたいと思います。ふたりの娘に、自信を持って「山形って、いいべ~」って言えるようになる事が、私の目標です。
【略歴】
1967年山形市生まれ。山形大学大学院医学専攻課程修了。山形県立中央病院、白鷹町立病院等の勤務を経て平成16年8月より現職。山形県医師会思春期保健対策委員、山形県結核・感染症発生動向調査企画委員、性教協山形サークル代表、BPW(Business and Professional Women)山形クラブ広報委員。